ジュードとラクウェル話。

ワイルドアームズ ザ フォースデトネイター(初回生産版)
まぁ、ユウリィがハウザーと一緒の時に、ジュードがラクウェルの作った謎食物を口に入れようとしたところからの続きですよ。
「そんなことよりッ!」ってところね。


「………ジュードが、私の作った料理を口にしてくれなかった………。」
冷たい床に置かれたままの皿。まだ微かに湯気が立っているがいずれは消えていくだろう。
「暖かいうちが、美味しいというのにな…」
ルノーは美味しいと言ってくれた。そうだ、私だって練習をしたのだ。


あの、ガウンへどうしても私の作ったものを口にさせまいとするユウリィの態度。
普段見せないような堅くなさが、より私の心傷をえぐった。
「そんなにも…私の料理は…不味い…のか…」
確かに料理など自分のためにしか作らない。自分が美味しいのならばそれでいい。
お腹が膨れ、しかも不味くは無い。これに如何程の支障があるのか。いや、ないだろう。
しかし。
ユウリィが、それは違うのだと、教えてくれた。
「作って上げた人が、美味しい、と言ってくれるととても嬉しいんです」


私は自分の為にしか、料理を作らなかった。そうして出来上がったモノは、私自身のための食物だった。
そう、料理ではなく、単なる食べ物。
誰かに食べさせるのであれば、それはとても不適切で不適合で失礼なモノであったのだ。
食べてくれる人への思いを感じられないのでは、人様に出すことなど出来はしない。
美味しいから食べてみろ、ではダメなのだ。


だから特訓した。
夜中に、ジュードとアルノーが寝静まった夜中にこっそりと厨房へ赴き、朝食を作ろうとした。
勿論、宿の主には事情を説明し、栄養管理は私が行っていることにしておいて。
しかし、何事もうまくいかない。
いや、この程度では問題ない、と自分では思うのだが…そう、人様…ジュードに出すものとしては
こんなものではいけないのだ。
ルノーならば、ウマイと言ってくれるのだろうな、と甘い考えが過ぎるがそれをすぐに振り払う。
ダメだダメだダメだ。
目玉焼きがカルボナーラになり、サラダがシチューになり、白御飯がドリアになるようでは多分恐らく確実にダメなのだ!


そんな日は、かならずユウリィが厨房に顔を出してくれた。
「大丈夫ですよ。私が何とかしますから」
そう、にこやかに言うと、私の作ったモノを朝に並ぶには少し豪華な料理へと作り変えていくのであった。
「いただきまーすッ!」
枕でついた寝癖もそこそこに食卓に座るジュードの嬉しそうな顔を見ると
私は
とても悲しいとも寂しいともつかない、気分になるのだった。


…。
…。
…。
試してみるのには絶好の機会だった。
ルノーはまだ気付かない。ジュードもまだ気付かない。
しかし二人には驚くほど上手い応急処置が施してある。この分ではすぐに目を覚ますだろう。
ここにいない誰かは気になるが、まずは栄養…そうお腹を満たさないといけない。
私は、料理を作った。
生まれて初めて、かもしれない。
他人の為に…いや、仲間の為に…いや、すぐ傍に倒れている大切な人の為に…
私は、料理を作った。


ルノーは美味しいと言ってくれた。そうだ、私だって練習をしたのだ。
誰かに食べてもらう「料理」の練習をしてきたのだ。


しかし。
ジュードは。
私の「料理」に一口も付けることなく。
ユウリィの心配を。
口にした。


悲しいとは思わなかった。
寂しいとも思わなかった。
ただ。
冷めないうちに食べて欲しかったな…。
少しだけ。
そう。
思った。