つまりは一つの屍である。一個の屍が道路の脇の側溝のコンクリ蓋の上に乗っかっているのだ。
それは別に邪神への生贄だとかアニュワゥト大精霊への供物とかそういうわけでもない。ただそこに乗っかっている一つの屍である。
屍はまるで物のようにと言っては失礼だがいやしかしそれは本当に物の様に置かれていたのだから仕方が無い。
何も知らない105歳くらいのばぁちゃんが通りかかったら恐らく多分うっかり手を擦り合わせてなんまいだぶなんまいだぶと本の中でしか聞かないようなレアな台詞を吐いてくれるに違いない。
しかし結局困るのは邪神も崇拝していない道端で人が死んでいてもなんまいだぶと唱えない一般ピープルである。いぱーん人のうちらが通るにはその空間はあまりに厳かで気持ち悪くてぶっちゃけ不便なのだ。
なんせどいてと言ってもどかない自転車のベルも届かないわざとらしい咳も通じないのだから。
あぁ困った困ったぞ諸君。
つまり我々はこの屍を乗り越えなければ次の戦いへと赴く事が出来ないのだ。さぁ手に銃とナイフと一片のパンを取れ。交差する全ての人に祈りを捧げよされば扉は啓かれん。
心の中と一部口ずさむドイツの軍歌はどうやら戸の機嫌を損ねたらしく次の日に祭壇の前を通りかかったらそこには何もなくただ何も在るような気がしなかった。